手話通訳士とは、聴覚に障害のある人々と健聴者とのコミュニケーションを支援する専門職です。主に、手話を使って音声言語と視覚言語の橋渡しを行い、両者の円滑な意思疎通を助けます。この職業は、福祉・教育・医療・司法・行政など多様な分野で必要とされており、聴覚障害者の社会参加を支える大切な役割を担っています。
例えば、病院での診察時、手話通訳士は医師の説明を手話に翻訳し、患者の訴えを音声で医師に伝えます。このような場面では、医療用語の理解だけでなく、迅速かつ正確な通訳力が求められます。また、裁判所では、被告人や証人の発言内容を正確に伝える必要があり、言葉の一語一句に注意を払う慎重さと中立性が重要です。さらに、企業の面接や職場内会議においても、通訳士の介在によって、聴覚障害者が情報格差なく参加できる環境が整えられます。
手話通訳士になるには、まず手話の高度な運用能力を身につける必要があります。日本では「手話通訳士国家試験」に合格し、厚生労働省から認定を受けることで、正式に資格を得ることができます。この試験には実技や筆記があり、手話表現だけでなく、聴覚障害者福祉や関連法規についての知識も問われます。
現場では、通訳だけでなく、場の空気や文脈を読み取る力、そして相手の気持ちに寄り添う姿勢も求められます。たとえば、ある手話通訳士が市役所での相談業務を担当していたとき、福祉サービスの申請に不安を感じていた聴覚障害者に対し、丁寧に制度を説明しながら安心感を与えることで、スムーズな手続きが実現したというエピソードがあります。
このように、手話通訳士は単なる「通訳者」にとどまらず、聴覚障害者の生活や権利を守る社会的支援者としても重要な存在です。多様な場面で信頼関係を築きながら活動する手話通訳士の仕事は、相手の人生に深く関わる責任とやりがいに満ちた職業といえるでしょう。
参考リンク一覧:
- 厚生労働省「手話通訳士試験について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188455.html - 公益社団法人 日本ろうあ連盟
https://www.jfd.or.jp/ - 全国手話通訳問題研究会(全通研)
https://www.zentsuken.net/ - 一般財団法人 聴覚障害者教育福祉協会(旧:聴教協)
https://www.kouseikyokuhonbu.jp/ - NHK みんなの手話(番組紹介ページ)
https://www.nhk.or.jp/minna/ - 活動実例
https://withnews.jp/extra/ishisotsushien/article/28/